ウケツギノート

制度と手続き

承継した会社の未払い残業代と労務の不備。100日のうちに確かめる順番

未払い賃金を請求できる期間「3年」を大きく示し、100日のうちに確かめる労務の書類を並べた表紙
監督指導を受けた事業場の42.4%に違法な残業。承継した会社の未払い残業代と労務の不備。100日のうちに確かめる順番の要点を数字で示した図
図:監督指導を受けた事業場の42.4%に違法な残業(出典:厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果」(2025年7月30日)/厚生労働省リーフレット「未払賃金が請求できる期間などが延長されています」)
この記事の要点
  • 賃金の請求権の時効は当分の間3年です。100日のうちに、直近3年分の賃金台帳・勤怠・36協定を照らし合わせます。
  • 2024年度に長時間労働の疑いで監督指導を受けた26,512事業場のうち、42.4%に違法な時間外労働がありました。
  • 中小企業では、月60時間を超える残業の割増率が2023年4月から50%以上です。古い規程のままなら不足が出ている可能性があります。

譲り受けた会社の勤怠を見ていくと、残業代の計算や36協定の届出に不備が見つかることがあります。対応をうやむやにして、キーパーソンが離職した例もあります。この記事では、どこまでさかのぼって何を確かめ、100日のうちに何を決めるかを整理します。

承継のあとに、労務のどこで不備が見つかるか

中小PMIガイドラインは人事・労務分野の1つ目のゴールに、法令遵守が不十分なら是正して徹底することを挙げています(P.100)。ガイドラインは労働条件通知書、36協定、社会保険、残業代、有給休暇などを確かめる先に挙げています。

ガイドラインの発展編には、管理機能の1つとして人事・労務分野があります(P.100〜105)。取組のゴールは4つです。法令遵守の不備を正す、双方の従業員が納得できる規程を整える、個別の労働契約の不備を正す、組織と人の配置を見直す、の4つです。

同じページに、失敗例が3つ載っています(P.100)。

3つ目の例では、未払いへの対応を決めなかったことが、キーパーソンの離職につながっています。

ガイドラインが具体的な取組として挙げる確認先は、次のとおりです(P.101〜103)。

確かめる所不備の例ガイドラインの対応
労働条件通知書交付していない労働基準法第15条第1項違反のおそれ。速やかに交付する
36協定などの労使協定結んでいない、届け出ていない第36条違反のおそれ。監督署への照会も使い、締結と届出をする
社会保険と労働保険加入していない、資格取得届が出ていない新規加入を含め、速やかに手続きする
残業代などの賃金未払いが残っている把握した金額を支払うなどの対応をする
有給休暇消化していない日数が残っている消化を促す。清算する場合は第39条の趣旨に沿って行う

未払いの残業代は、どこまでさかのぼるか

賃金の請求権は支払日から3年で時効になります。法律の本則は5年で、当分の間は3年とされています(厚生労働省のリーフレット)。100日のうちに確かめる範囲も、まず直近3年分と考えます。

2020年4月の労働基準法の改正で、賃金請求権の時効は2年から5年に延びました。ただし当分の間は3年とされています。対象は、2020年4月1日以降に支払日が来る賃金です。賃金台帳などの記録の保存期間と、付加金を請求できる期間も、同じく当分の間は3年です。

厚生労働省の労働条件のQ&Aは、割増賃金の計算の基礎に入れるべき手当が入っていなかった場合、監督署から勧告される遡及の是正が2年から3年になり、多額になることがあると注意しています。残業代の不足は時間の記録の漏れだけでなく、計算の基礎の誤りからも生まれます。

監督署が扱う賃金不払いの件数は、少なくありません。厚生労働省によると、2024年に全国の労働基準監督署が扱った賃金不払い事案は22,354件、対象の労働者は185,197人、金額は172億1,113万円でした。このうち21,495件(96.2%)は、監督署の指導で使用者が支払って解決しています。

残業代を確かめるときに見る書類

3年分の書類を、次の順で照らし合わせます。

  1. 賃金台帳。 残業代として払った時間と金額を拾います。
  2. 勤怠の記録。 タイムカードや勤怠のシステムの時間と、1の時間を比べます。差があれば、未払いの候補です。
  3. 就業規則と賃金規程。 割増賃金の計算に入れている手当と、入れていない手当を書き出します。
  4. 36協定の控え。 結んだ時期、届け出た日、上限の時間を確かめ、2の実績が上限の中に収まっているかを見ます。

勤怠の記録が無い、または実態と合わない会社もあります。ガイドラインは基礎編で、規程や帳票が無い、または実態と乖離していることがあると書いています(P.53)。記録が足りないときは、本人への聞き取りで補うことになります。

ガイドラインの人事・労務分野の失敗例と、100日のうちに打っておく対策です。

長時間労働は、どれくらい見つかっているか

厚生労働省が長時間労働の疑われる事業場を調べた結果では、4割を超える事業場で違法な時間外労働が見つかっています。承継した会社の残業が多いときは、上限の規制に照らして確かめます。

厚生労働省は、時間外・休日労働が月80時間を超えると考えられる事業場などを対象に、2024年度に26,512事業場へ監督指導を行いました。違法な時間外労働があったのは11,230事業場(42.4%)、賃金不払残業があったのは2,118事業場(8.0%)でした。労働時間の把握が適切でないとして指導を受けた事業場は4,016事業場(15.1%)です。長時間労働が疑われる事業場を選んで調べた結果なので、中小企業全体の割合として読むことはできません。

ガイドラインは働き方改革関連法の主な内容を、コラムで次の4つにまとめています(P.104)。

決まり中身中小企業への適用
時間外労働の上限原則は月45時間・年360時間。特別な事情があっても年720時間、単月100時間未満、複数月平均80時間以内。月45時間を超えられるのは年6回まで2020年4月から
年5日の有給休暇年10日以上付与する労働者に、毎年5日を確実に取らせる2019年4月から
公正な待遇正規と非正規の間で、不合理な待遇の差を設けない2021年4月から
割増賃金率月60時間を超える時間外労働は50%以上2023年4月から

月60時間を超える残業の割増率は、中小企業では2023年4月から50%以上になりました。それより前の規程のまま給与を計算している会社では、2023年4月以降の分に不足が出ている可能性があります。

長時間労働が続いている会社について、ガイドラインは、従業員の個別の事情だけでなく構造的な原因も探し、業務の流れや配分の見直し、人員の補充を早急に行うよう求めています(P.103)。改善を従業員に任せず、経営陣の課題として扱う、とも書いています。

承継の方法で、労働契約の扱いはどう変わるか

株式譲渡なら、労働契約はそのまま続きます。事業譲渡では、従業員一人ひとりの承諾が要ります(P.105)。会社分割と合併では、労働条件もそのまま引き継がれます。

ガイドラインのコラムは承継の方法ごとの違いを整理しています(P.105)。

会社分割と合併では、引き継いだ労働条件を譲り受ける側の条件に合わせて変えると、不利益変更に当たることがあります。ガイドラインもこの点に注意を促しています。

就業規則と賃金体系は、いつ変えるか

就業規則や賃金体系は、100日のうちに急いで変えないほうが安全です。ガイドラインは、一定期間は現状の水準を維持すると合意する例も挙げています(P.102)。

ガイドラインは就業規則(労働基準法第89条)をはじめとする規程類について、等級、賃金体系、労働時間の管理、人事評価、退職金などの見直しを挙げています(P.102)。同時に、労働条件の不利益変更を伴う場合など「機微に触れる部分」(P.102)であるとして、変えるかどうか、いつ変えるかを含めて慎重に検討するよう書いています。

100日のうちは法令に違反している部分を正すことを先に進めます。違反ではないが従業員が不満を持っている制度は、聞き取りで不満の中身を確かめてから、1年の計画の中で見直します。P.100 の失敗例のとおり、不満のある制度をそのまま残すと離職につながります。急いで変えても、不利益変更の問題が起きます。聞き取りと見直しの時期を従業員に伝えておくと、どちらの失敗も避けやすくなります。

新しい規程を整えたら、一方的に通知するだけでなく、説明会や個別の説明で理解してもらうよう、ガイドラインは書いています(P.102)。

100日のうちに決めること

未払いの有無と金額の把握、36協定と保険の手続き、払う時期の決定は、100日のうちに済ませます。規程の見直しは100日目の見直しで1年の計画に回します。

100日のうちに確かめることを、チェックリストにまとめます。

社内だけで判断が難しい項目は、所轄の労働基準監督署への照会や、社会保険労務士などの専門家への相談を使います。ガイドラインも36協定の不備について、監督署への照会や、譲り渡す側の担当者が行ってきた手続きの確認を挙げています(P.101)。

未払いが見つかったときは、金額の大小にかかわらず、従業員に説明する順番を決めておきます。ガイドラインの失敗例のとおり、うやむやにすると、残ってほしい人から辞めていきます。

出典

  1. 中小PMIガイドライン(中小企業庁、令和4年3月)P.53、P.100〜105 https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/pmi_guideline.pdf
  2. 未払賃金が請求できる期間などが延長されています(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署、リーフレット)P.1 https://www.mhlw.go.jp/content/000617974.pdf
  3. 賃金請求権の消滅時効は、どのように変更されたのでしょうか?(厚生労働省「確かめよう労働条件」Q&A) https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/chingin/q9.html
  4. 賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和6年)を公表します(厚生労働省、令和7年8月7日) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_60431.html
  5. 長時間労働が疑われる事業場に対する令和6年度の監督指導結果を公表します(厚生労働省、令和7年7月30日) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_59983.html

この記事の作り方:中小企業庁などの公的な資料を読み、記載のページを確かめて書いています。下書きには生成AIを使い、編集部が資料と照らし合わせて確認しています。制度は改定されることがあるため、手続きの前には必ず原典と窓口でご確認ください。